開発人生記 その11

                ―――― スクリュー・プレス工法の発展利用 ―――――

                  低炭素低コストを目指した液状化対策工法」の開発            

 

 「開発人生記 その10」で紹介したように、自社開発した「スクリュー・プレス工法」により住宅の地盤改良を施工していた際、下部砂層まで孔をあけると当然地下水が吹きあがってくる地層で、圧縮空気を先端から噴射しながら掘削するとしばらくの間地下水は孔の近くから無くなってしまうことが分かりました。 

 

圧縮空気を地下に送りながら掘削すると周辺の地下水は遠くへ押しやられて、孔の周囲には一時的に地下水が無くなる」という重大な発見に至ったのです。 

 この現象を図示すれば、おおよそ下図のようになると考えられます。 

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    上部が粘土層、下部が砂質土の地盤             空気を送って地下水が押しやられた状態     

 

 上図左のように表層が粘土層で、下部が滞水砂層である地盤は日本の都市部が有る扇状地地盤には結構多くあります。 下部の砂層に滞水した地下水は粘土層まで被圧している場合も多いものです。 右図のように、この地盤に下部から圧縮空気を吹き出しながら孔をあけていくと、砂層に入った空気は地下水を押しやって砂粒子間の水は空気に置換されていきます。 どこまでどのように空気が広がっていくかは水圧と空気圧のバランスの問題ですが、おおよそ地下水位は右図のように変化するであろうと考えられます。 つまり、この図のように孔の周りには一時的に地下水が無くなるわけです。 

 「開発人生記 その2」で紹介した「ウエルポイント工法」は真空で地下水を吸い上げてしまうことで地下水を無くして掘削工事をし易くする技術ですが、逆に圧縮空気を送り込んでも同じように地下水を排除できるわけで、これは「世界初の技術」ではないかと思います。 ウエルポイント工法の代用等、研究すればいろいろな用途が見つかるかも知れません。 

 

 とにかく、孔の周りに水が無くなれば丸い孔というのは容易には崩壊しません。 しかし、砂質土に地下水がしみだしてくれば地盤はあっという間に崩壊します。 液状化対策が必要な地層は「砂質土」で「地下水位が高い」ので、私はこの工法で健全な砕石柱を作るのは困難だと考えていましたが、地下水が一時的にでもなくなってくれれば話は別です。 すぐに液状化対策工法」を開発しようと決断しました。

 

 液状化対策にはいろいろな方法が提案されていますが、この工法で砕石の柱を作れば排土をしない工法なので柱体積分圧密により地盤が「密」になります。 地盤を締め固めて密にすると液状化抵抗力は大きくなるのです。 また、液状化すると地下水と砂が混合した状態となり上部の重みを液体で受けることとなるので地下水の圧力(間隙水圧)が上昇します。 地中に砂は通さず水だけ通す透水性の高い砕石の柱があればその周囲の間隙水はその柱の中に流れるため、すぐに間隙水圧は下がり液状化は収まります。 この工法で液状化対策をするというのは、この二つの効果を期待している訳です。 これを図示すれば下図のようになります。

 

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 この二つの原理で液状化地盤の対策が出来ることを実験実証しようと思い、まず実験場所を探しました。 富山県では埋立地が少ないので液状化地盤が多くありません。 しかも実験をするのですからかなり広くて振動や騒音が出てもいいように民家から離れている必要があります。 いろいろ探したところ高岡市伏木地区に万葉ふ頭という場所があり、ここは埋立地なので液状化マップを見ても完全に液状化地盤を示す赤色で表示されています。 しかも近くに民家はありません。 ここは県が埋め立てた県有地となっており、企業誘致して売却する計画で造成したようですが、まだ未売却で草原状になっている広い場所が残っています。 ここが最適と思い知己の紹介で県の担当課と交渉し、実験場としての使用許可を得ました。 許可を得たらすぐに地質調査を開始し、液状化地盤であることを確認しました。

            f:id:koufuku-kyouden:20211217100628p:plain                                                                  実験場候補地                        

 

 同時に、実験結果を解析してこの工法が液状化に対して効果が有ることを数値で表現し、研究成果としてまとめて論文にして公表してもらう必要がありますから、大学等と提携共同研究とする必要が有ると考えました。 

 そこで再び県の建設技術課に相談したところ、新潟県長岡技術科学大学工学部の教授を紹介されました。 早速大学に出向いてお願いしたところ快く共同研究を引き受けていただきましたので、それから数年間実験と共同研究を続けたのです。 研究成果土木学会地盤工学会液状化抑制の研究として発表されました。

 また、実験にかかる費用を算定したところ2000万円程度と見込まれたため、国の補助金を探した結果、「ものづくり補助金」で1000万円の補助が得られる可能性があると分かったので早速応募し、無事採択されて1000万円補助交付が決定しました。

 

 この実験で行ったことは主として 砂地を掘るスクリューはどんな形状がいいか 地下水のある砂地で4mの砕石柱が孔の崩壊なしにきちんと作れるか 作った砕石柱の周囲地盤がどの程度圧密されて固くなっているか 実際に振動させてみて砕石柱周辺液状化しにくいか の4点です。

 先ず「スクリュー形状」です。

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                   今までの粘性土用スクリュー              

 

 今までのスクリューは粘性土を対象としていたため回転と少しの押圧で容易に地中に挿入できたのですが、砂は押圧すると逆に固くなって掘れなくなるため先端をいろいろ工夫してみました。

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 上の写真のようにいろいろな先端を作って掘ってみて、どの形状が速く掘れるか、掘削時間を測定するのです。 いろいろテストした結果、従来のスクリュー径400mmでは最速でも4m1本あたり15分位かかります。 これではコスト高になり実用的ではないので、径を300mmとして再実験を行うと最速4分程度で掘削出来るようになりました。 先端は写真下側の2枚の形状が最適とわかりました。 

 更にいろいろな学術誌を調べると、液状化地盤の間隙水圧を抜いて液状化を押さえるには砂は抜かずに水だけを抜く必要が有ることが分かり、このためには従来使っていた3号砕石では粒度が粗すぎて適当ではなく、より粒度の細かい6~7号砕石を使用すべきことが分かりました。 そこで細かい粒度の砕石を使ってみると砕石投入時に表層付近の土が崩れて砕石と混じる場合が多く、土が混じると間隙水圧軽減効果が悪くなります。 この対策としてスクリュー上部をじょうご状に広げました。

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            じょうご状に広げたスクリュー               

 

 これらの研究成果完成したのが下記のスクリューです。

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              液状化対策施工用スクリュー                    

 

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              液状化対策スクリュー図面                   

 

 このスクリューで実験したところ、1サイクル6分~10分程度でした。 つまり、1時間当たり6本~10本、1日実稼働6時間とすれば36本~60本作ることが出来ます。 これならコスト的にも十分実用になることが分かりました。

 の「4mの砕石柱が孔の崩壊なしにきちんと作れるか」では実際に作った砕石柱を掘ってみて、きちんと砕石の柱になっているかどうか確認するのです。 掘るときには水が出ると周囲地盤が崩壊して掘れませんので、ウエルポイントで地下水位を4mまで低下させた上で、土留めをしながら掘っていくのです。

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 上記の写真でわかるように、実際に掘ってみて各深度の径を測り、荷重をかけて強度も確かめるのです。 これにより計画深度まで砕石柱がきちんとできていることを確認しました。

 ③の「砕石柱の周囲地盤どの程度固くなっているか」 では下図のように長さ4mで4本の砕石柱を正方形配置し、その近辺7か所で砕石柱施工前と施工後の地盤の閉まり具合を測定するのです。 

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             砕石柱と調査位置の配置図                        

 

 調査はスウェーデンサウンディング試験法(SWS試験法)という方法で7mの深さまで調査したのですが、4mの砕石柱を作ると深さは5m付近まで締固めが影響し、付近の閉まり具合を示す数値(換算N値)は1.7~2.2倍程度まで上昇することが確認されました。 次図は施工前後の地盤をSWS試験法で調査した結果の一例を並べたものです。 左が施工前、右が施工後で4.5m程度の深さまで地盤がよく締め固められているのが確認できます。 

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             施工前後の地盤の変化比較                  

 

 ④の「砕石柱周辺液状化しにくいか」では、実際に地面を振動させて強制的に液状化現象を起こし、砕石柱付近とそれ以外の場所で液状化の広がり方が変わるかどうか観測するのです。 下図のように4本の砕石柱3か所に配置残り1か所は砕石柱無施工とし、その中心部に振動を起こす装置を配置したのです。 

 

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                実験の配置図                     

 

 振動を起こす方法はいろいろ検討したのですが、現実的に数分間継続的に加振できる方法として、鋼矢板を打設するときに使うバイブロハンマーを選択し、手に入る最大のものを手配しました。 地中に次図のような鋼矢板の先端に約1mの円盤を溶接したものを6mの深さまで埋め込み、これをバイブロハンマーで振動させるのです。 

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 こんな大きなものを6mの深さまで埋め込むのは大変ですが、「開発人生記 その1」で紹介した当社独自技術「まるぼりくん工法」を使ったので容易に埋め込むことが出来ました。

 

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           「まるぼりくん工法」で掘った孔に建込中             

                                           

 

 これで、実際に振動を掛けた結果が下記写真です。

  

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 大きなバイブロハンマーにて数分間振動を掛けた結果が上記3枚目の写真です。 写真中の②③④には砕石柱が施工してあり、①には施工してありません。 振動をかけると中心から液状化による沈下が始まり徐々に周囲に広がっていきましたが、写真に見られるように砕石柱の近くまで行くと沈下の広がりは止まり、砕石柱の無いところはどんどん広がっていきました。 目視でも効果がはっきり確認できる実験となりましたが、①~④それぞれの中心部付近には加速度計間隙水圧計を配置しました。

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             加速度計・間隙水圧計の設置               

 

 これらから取得できたデータを長岡技科大で解析し、学会論文として発表したのです。

 

 大変な費用時間をかけた実験で効果施工性確認できたので、いよいよこの工法の普及活動に力を入れ始めました。 富山県では液状化対策をすべきところが殆どないので、最も大きい市場である関東、その中でも千葉県液状化被害で有名なのでこの独自技術を引っ提げて関東進出を計画しました。 おりしも当社に入社を希望していた土木関係の営業経験者を採用し、千葉県に「南関東営業所」をつくって所長として配置しました。 まだ29歳であった所長は新規に立ち上げた営業所で大奮闘し、多くの実績を作りました。 住宅の液状化対策はもちろん、大きなものでは公共工事海浜公園整備で2000本以上の施工を行う大型工事採用された実績も出来ました。 

 

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            海浜公園整備工事での施工                

 

 この工法は天然砕石使用なのでもともと低炭素工法である上、既存の液状化対策工法に比べてセメント不使用なので有害物質発生懸念が無く、固形物を作らないので将来の撤去費用の発生もなく、しかも圧倒的に低コストです。 日本の国土強靭化のためにも本工法の普及が急がれますし、世の中の認知が進むにつれたどんどん施工が増えていくことでしょう。