開発人生記 その14

                                                 地下水の困りごと解決策の提案

 

 「開発人生記 その2」で「ウエルポイント工法」に挑戦し、その道のプロになっていったお話を載せましたが、その結果地下水に関する知見が増え、いろいろな地下水トラブルの相談が舞い込むようになりました。 今回はその中でも多くの人が解決方法がわからず悩んでいそうなものを解決する(解決した)お話を載せたいと思います。

 

 富山市内の某所で新築のビルが竣工し、入居して使用していたところ梅雨時期に1階の床にいたるところから水がじわじわと染み出してくるようになりました。 ビルを建てた建築会社は強硬なクレームに見舞われましたが解決方法がわからず、地下水のことなら私に相談したらよいと人づてに聞いて電話してきたのです。 

 早速調査に行きましたが、この建物は鉄筋コンクリート造で主に水が出てくるところは床と壁の打ち継ぎ目からでした。 この建物は1階が道路面より1mほど低い半地下状態となっており、周囲から水が集まりやすい構造です。

 この地区は表層3m~4mまでが粘土層となっています。 この粘土層の中に建物を建てるために建物より周囲1m程度大きく掘削し、建物を建てた後周囲を山土砂で埋め戻しています。 (下図参照)

 

 雨が降ると、この埋め戻した山土砂に水がしみこみます。 山土砂は水を通し易いので雨水はどんどん染み込みますが埋め戻した土以外は水を通しにくい粘土層なので、しみこんだ水は逃げるところがなくどんどん地下水位が上昇してきて建物躯体に水圧がかかるため、底盤と壁面の打ち継ぎ目から染み込んだ水が1階床に出てくるのです。 

 本来、このような構造のビルは埋め戻し前に地下部分の壁面はすべて外側から防水をする必要があるのです。 設計者に知識がなかったために、防水がなされていなかったのでしょう。 ビルに入居者が入り供用開始してしまってからでは再び掘り返して防水工事を行うのは大きな費用が掛かるのと駐車場など一部の供用を停止する必要があるため、現実的ではありません。

 そこで私は、雨が降っても山土砂部分の水位が上昇しないように底盤より少し下側に暗渠パイプを敷設する提案を行いました。 ビル前面は植栽があったり出入口の構造物があったりで掘削困難なため、後ろ面と横面を掘削しパイプを埋設することにしました。 埋め戻しに使った山土砂は砂質土で透水性がよいため、少し深めにパイプを設置すれば前面の水位上昇も防げると考えたのです。 建物後ろ面と横面を深さ1.5m幅1m程度で掘削し、暗渠パイプを設置して周囲を透水性の良いフィルターサンドで囲むのです。 その上側は元の山土砂で埋め戻しました。

 更に、この地区はほとんど平坦な場所でパイプの水を自然排水できないため、パイプの端にマンホールを設置してパイプの水を集め、その中にフロートスイッチ付き水中ポンプを設置したのです。 フロートスイッチ付きのポンプであれば通常はポンプは停止しており、雨が降って水が染み込んできたときのみポンプが排水するので電気代もわずかで済みます。

 このポンプを設置してからは水の染み出しはぴたりと止まり、以後フロアに水が出てくることはなくなりました。 このような半地下構造の建物は日本中いたるところにあると思います。 外面防水を施してあっても老朽化でわずかに水が染み出してくることもよくあることです。 建築関係の人は外面防水補修する手段として掘削して補修するのは多大な費用と時間と迷惑が掛かるので、内側からの止水を試みるのですが、ほんのわずかな水の侵入は内部止水では解決することはありません。

 掘削して外面防水する以外の根本的な解決方法は、建物周囲の地下水位フロア面以下に保つことです。 建築設計に携わる方は是非参考にしていただいて、湿気のない良い環境の建築物をご提供ください。