開発人生記 その4

 前回はドイツ・ミュンヘンのバウマ展見学までを記載しましたが、今回は国内で機械を導入し、営業活動を行ったお話です。 利益率の高い新しい仕事を創り出しても、時代が変わると消滅していく典型的な工法となりました。

 

     グルンドドリル工法の導入~プッシュプル工法の開発(後編)

 

 この工法(グルンドドリル工法)は面白いと思い、近隣自治体を回ってヒアリングを開始したところ、富山県では水道本管にポリエチレン管を全く使っておらず、ダクタイル鋳鉄管を使っていました。 この管は1本4m乃至5mの管をシール付きのソケット部に差し込み、繋いでいく構造です。 これでは引っ張ると抜けてしまいますので、グルンドドリル工法では施工できません。 

 ところが、お隣の石川県では水道本管にポリエチレン管を使っているのです。 そこで、石川県で営業活動をしたところ、H市やN市で数件仕事を頂きました。 また、富山県のT市ではポリエチレン管は使っていませんがポリエチレン管をさや管として、中にダクタイル鋳鉄管を挿入する形で発注がありました。 

 これらの仕事を最初は伊藤忠建機のデモ機を借りて施工していましたが、翌年3月、ついにGD65型グルンドドリル施工機を思い切って購入しました。 価格は3500万円くらいだったと思います。 当時の年商が6億円程度ですから、かなり思い切った投資です。 

 投資をしたら、回収のために仕事を増やさねばなりません。 発注の可能性がある地方自治体(市町村)、水道事業体、ガス事業体を北は新潟県新潟市から南は福井県小浜市まで資料を抱えて営業に回りました。 しかし、いかに低コストで仕事が速いといっても、全く新しい工法なのでおいそれとは仕事を発注いただけません。 一か月に一工事くらいの受注ペースですから、機械の稼働率も低く、遊んでいることが多い状況でした。 

 最大の原因は地元富山県では水道管がポリエチレンで無いため、水道管の敷設工事受注が少ないためだと考えました。 そこで、富山県で使っているダクタイル鋳鉄管をこの機械で敷設できる方法を検討しました。 

 調べるとダクタイル鋳鉄管にもいろんな型があり、当時メインで使っていたのはK型ですが地震対策の耐震管NS型というのがあり、K型より高価ですが地震対策のために一部で使われ始めていることが分かりました。 

 この管は管接続部を一度つなぐと抜け止めが付いているため抜けません。 これなら、引っ張ることが出来ます。 ただし、接続部分は地震の時動いて地震動を吸収する構造のため十数センチ動くような耐震間隙を作ってあります。 設置時は間隙の中央に先端部を置くようにしなければなりませんが、引っ張って施工すれば管は最も伸びた状態となってしまいます。 そこで私は、押せば間隙の中央部に止まるようなリングを作り「推進力伝達リング」と名付けました。 このリングはボルト2本で固く締め付けてあるためゆっくり押してもずれませんが、地震時のような大きな衝撃が加わるとずれるのです。 

 まず引っ張って全管を敷設した後、後ろからゆっくりと押せば耐震間隙を確保できます。 この方式でやってみようと管を後ろから押すジャッキを製作し、営業活動を行って受注した案件で施工を行ったところ非常にうまくいきました。 当初のグルンドドリル工法とは少し形が変わったので、これを「プッシュプル工法」と名付けました。

  

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 初回のプッシュプル工法が大変うまくいったので、自信をもって営業活動を行ったところ、いくつかの仕事を受注することが出来ました。 ところが、粘性土土質で施工しているうちは非常にうまくいくのですが、砂質土土質になると引っ張てもなかなか管が進みません。 鋳鉄管は管接続部のソケットが管体部よりかなり太いため、この部分が砂に引っかかってなかなか進まないのです。 粘性土施工より何倍も施工時間がかかる上、最大の力を長時間かけるため品質低下の可能性もあります。 「砂質土は出来ません」では仕事の量が大幅に少なくなります。 

 思案した挙句、このNS型ダクタイル鋳鉄管の形状を変えて、全体を最も太いソケットの太さに合わせて均一な太さのストレートな管とすれば砂が引っかからなくなり、スムーズに引っ張れるだろうと考えました。 そこで、この管を作っているメーカーを調べたところ、日本で最も多く作っているのはクボタでした。 クボタは農業機械で有名ですが、水道管も作っているのです。 

 クボタの鋳鉄管事業部の営業所が金沢にありましたので、電話でアポをとり、訪問してNS型ダクタイル鋳鉄管ストレートな推進管を作れないかという相談を持ち掛けました。 クボタの反応は散々で「この管は土の中を推進する管ではない、引っ張ると傷が付き耐久性に影響する」などと、当社の施工方法を否定する話ばかりでした。 私は、「傷が心配なら傷がつかないような管を開発すればいいだろう、全く新しいことをやりたがらない連中だな」と腹を立てながら帰ってきました。 

 ところが、それから約3ヶ月後、ストレートな管を作る構想をあきらめかけていた頃、突然クボタから「先日あなたが提案した管を、クボタの新商品として作ってみようという話になったので、協力してもらえますか」という電話がかかってきました。 当時、クボタはいろいろな事情から新商品開発に力を入れ始めており、大阪支店管内の会議の際、「新商品のアイデアは無いか」と強く言われていたらしいのです。 そこで苦し紛れに「ダクタイル鋳鉄管の推進管を作れないかと言ってきた業者がいる」と言ったところ、「それは面白い、やってみよう」となったらしいのです。 

 私にとっては、渡りに船で協力を惜しむ理由はありません。 今度はクボタの技術者が図面をもって当社に打ち合わせのため来社され、形状や施工法等、仕様を決めました。 

 3ヶ月後位には製品の形が出来るとのことで、先ずは営業に先立ち、実績を創ろうとなりました。 私はクボタに対して「初回この管を無償提供してほしい、無償ならすぐに施工現場を作ってもらえると思う」と言って初回無償の許可をもらい、T市水道局を訪問し、「管材料費を無償で施工するから、推進工法に適した現場でこの管を使った設計を組んでほしい」とお願いに行きました。 自治体にとって水道事業というのは重要なインフラ事業ですが、独立採算は大変厳しく万年予算不足です。 そこに高価なNSダクタイル鋳鉄管の材料費を無料で施工すると言ってきたのですから断る理由はありません。 早速、管更新計画が有る工区で新しい管を採用した設計を組んでいただきました。 結果、新タイプの管はまことにスムーズな施工が出来ました。 

 この工事で実績が出来たので営業をさらに活発化し、水道やガスで多くの施工を受注することが出来ました。 また、クボタの営業網で関東や東北の自治体でもこの推進管が採用されました。 当社は関東や東北には行けませんので、地場で機械を所有している業者が施工するのですが、最初は地場業者に不足している機材を当社から貸し出し、私が施工指導に訪問しました。 2回目からは地場業者だけで施工するのです。 全国でそこそこの施工実績が出来たようです。

しかし、そのうち時代が変わってきて、いろいろなところで規制緩和が始まりました。 土木の世界でも水道管やガス管は道路下に埋設する場合、原則土被り1.2mを確保することとなっていましたが、これが浅層埋設といって原則土被り0.6mでいいことになりました。 浅くなると開削による管埋設費用は格段に安くなります。 各自治体、事業体は工法別による費用比較をし、なるべく安い工法を選択しますので、浅層埋設が普及したとたん、当社の水道事業に対する推進工法採用は激減してしまいました。 このころには富山県下水道普及率80%を超えたため、下水道関連の推進工事・開削工事も減少の一途をたどっていました。 このころを境に、当社の主力工事上下水道関連から、以前から研究開発していた地盤改良関連へと大きく変わっていったのでした。 この地盤改良技術の開発は、改めてつぎの機会に紹介いたします。