開発人生記 その12

                                                   ナローパワー工法の開発

 

 「開発人生記 その10」で紹介したように経営している会社の主たる事業が「下水道関連」から「住宅関連」に移行していった訳ですが、その結果住宅関連事業者からのいろいろな引き合い要望が寄せられるようになってきました。 

 その中の一つに、「古民家再生工事」の地盤改良をしてほしいというものがありました。古民家再生というのは、江戸時代に建てられたような古い木造戸建て住宅を、頑固な骨組みはそのまま利用し、コンクリート基礎を新造した上で外壁や間取などを大規模にリニューアルするものです。 

 現在の戸建て住宅ではコンクリート基礎を作り、それにボルト等で住宅躯体を固定した形で家を建築しますが、昔の家は束石の上に家を建てたのです。 床は結構高かったので床下は広く、いろいろな物を置くのに利用されていました。 そのかわり、床下には外気が自由に通るので、湿気がこもることはありませんが床下の気温は外気と同じほどのなるので冬は床下から寒気が伝わってきます。 

 今の家はコンクリート基礎が地中に40cm程度食い込んでおり風等の外力に抵抗していますが、昔の家は束石の上に置いてあるだけなので.、外力に対する抵抗力は自重だけだったのです。 それでも毎年来る台風でもそれほど飛んでいかなかったのは、昔の家は柱・梁・屋根などが重く全体重量が相当あったためで、現在の木造家屋を同じ構造で建てれば台風で多くが飛んでいくでしょう。

 その、骨太の頑丈で耐久性のある大きな古民家ですが断熱性という点では非常に劣っており、夏は涼しいが冬はめちゃくちゃ寒いのです。 そこでこの丈夫な躯体を使ってコンクリート基礎を追加築造し、壁や窓などを作り直して断熱性を高め、間取りも今風に変えて使い易いように変えるのが古民家再生工事なのです。

 この基礎を造る際、床などは全部撤去し、家を1m程度持ち上げて柱は上の梁から垂れ下がった形となり、その下でコンクリート基礎を造るのです。 邪魔ものが沢山あるため、基礎掘削するのも本当に小さなミニショベルしか使えません。 このような状況で基礎下に地盤改良をして欲しいとの要望が寄せられたのです。

 最初のうちは小さなミニショベルで土とセメント系固化剤を混合撹拌する表層改良という方法で施工していましたが、機械が小さいうえ邪魔ものが沢山ある環境での作業なので能率が悪く、品質にも不安があり、工事採算も芳しくありません。 もっと合理的な方法が無いかといろいろ考えましたが、このような狭く障害物も沢山あるところでは、重機での施工は能率が悪く、むしろ人力で持つ機械鋼管打撃貫入する方が良いと考えに至りました。 細い鋼管を地面に沢山打ち込んでそれで荷重を支えるという方法です。 細い鋼管なら人力で扱いやすく、地中に打ち込むにも手で持てる小さな打ち込み機で打ち込みが出来ると考えたのです。 

 打ち込む鋼管の長さは地盤の状況によって様々となります。 鋼管1本に出来るだけ大きな荷重を負担させるには、鋼管の先端は支持層というよく締まった地層まで到達させる必要があるからです。 古民家再生の現場では現場上には建物がありますからあまり長いものは打てませんし、人力で持つ打ち込み機ですから高い場所で打ち込むのも危険です。 そこで鋼管は外径48.6mmを採用し、長さ1m~1.5m程度の短いものを現場で順次溶接継ぎ足ししていくこととしました。

 施工イメージは次図のとおりです。

 鋼管を打ち込む機械は、当時会社で多数所有していた空圧式の手持ち式コンクリート破砕機(エアブレーカー)を使うこととしました。 エアブレーカーというのは解体現場で作業員が手で持って、「バッバッバッ」とすごい音を出しながらコンクリートを斫っているあの機械です。 

 

          

 

 これで鋼管の頭をたたいて地面に貫入することとしたのです。 なにしろコンクリートを壊す機械ですから、鋼管の頭をたたいた場合鋼管の方が壊れずに地中に貫入させるのが一苦労です。 鋼管の頭を叩く部分(ジゼル)の形状をいろいろと工夫しました。 最初に作ったジゼルの鋼管を打撃する部分の形状は下図のように突起を内側に出したものでした。

             


 これで打撃を与えて鋼管を地中に打ち込んでみたところ、最初はうまく打ち込めていたのですが、先端が少し硬い地盤に当って入りにくくなると打撃面に大きな力がかかるので鋼管の打撃面外側へ広がるように変形をし出して、そのうち割れて外側へ広がってしまいました。

 そこで今度は外へ広がらないように、ジゼルの打撃面を下図のように両側から挟む形に変更してみました。

             

 

 これは大成功で、たたいても変形が少なく、変形しても内側へも外側への広がれないので丸く膨れるように変形するのです。 ジゼルの打撃面形状はこれで完成しました。 ちなみに鋼管の頭部は下図のような形に変形します。

         

                             

 鋼管を地中に打撃貫入する技術開発が完了したら、今度は地中に設置した細い鋼管は1本あたりどの程度の支持力を期待できるのか、実験開始です。 先ずは専門書で支持力計算の方法を学習・習得し、いろいろな地質条件の現場で「載荷試験」という支持力測定試験を沢山実施するのです。 3ヶ月くらいかけて多くの試験を行い、その結果より支持力計算方法も確立しました。

 

 これらの工夫をまとめてシステムとして特許申請を行いました。 特許取得は何回か拒絶査定をされ苦労しましたが、最終的に無事取得することが出来ました。

 開発した後の施工は古民家再生の現場だけではなく、すでに家が建っている裏側で地盤改良用の機械を搬入できない増築現場高架下などで上の高さに制限が有り、機械が稼働できない現場などいろいろな現場で沢山採用頂きました。 

 

 この工法は機械が入れないところでも施工できるので大変便利なのですが、なにしろ振動が激しい打ち込み装置を人力で支えているので施工者本人は大変疲れます。 そのため施工は20代~30代の若者3人で交代で施工するのです。 でありますから、作業員がもっと楽に出来る様、機械化できないかずっと考えていました。 

 この考え続けていたことが、あるきっかけで次の狭隘地地盤改良技術である「スーパーナロー工法」に結びついていくのです。 「スーパーナロー工法」開発のお話は次の機会に公開したいと思います。