開発人生記  その7

 

             六脚走行機械にかける夢

 

 以前公開したブログ「企業経営のお話 その2 創業のすすめ」の中で、私は「幸せな「開発人生」を満喫できました」と過去形で記述しましたが、実は現在進行形で「新しい機械の開発」も手掛けています。

 現在進行中の開発は「六脚走行機械」です。 これは当ブログ内「令和の日本列島改造論 その2」で提案している林業用の建機で、日本の林業の現状を大きく変えようという考えで進め始めたものです。 

 日本の山地には無限といえるほどの木材資源が存在しますが、これの搬出コストが大きく、搬出してもそのコストを回収できないという点が、日本の林業を大きく圧迫しています。 この点を解消すれば、日本の林業の未来も明るくなり、森林材利用による環境貢献は多大なものがあると確信していますので、提案しても実行してくれる人が現れそうにも無いことから、自ら開発にチャレンジを始めました。 

 機構や仕様、使用方法等のアイデアは私が考え、走行制御プログラムは長岡技術科学大学梅本先生が開発を進めています。 先般この開発をマスコミリリースしたところ、223日午後6時半頃の地元TV・KNBニュース番組(下記写真)で取り上げられたので、見られた方も多いのではないかと思います。 

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 この開発は多分私が今まで開発したものの中で最もスケールが大きいものになるはずです。 また、かなりな時間も要すると思われるので、これからの生涯をかけたライフワークとなりそうです。 

 

六脚走行機械とはどんなものか

 六脚走行機械とは何? 開発してどうするの? という声に応えて説明します。

 

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 六脚走行機械は、文字通り六本脚で歩く機構です。 現在、実用化されている自走機械の走行部車輪(タイヤ)無限軌道(クローラーが付いています。 タイヤ付きの機械はかなり平坦堅固な地表面しか走行できません。 クローラー付きは少々の不整地でも走行できますが、段差苦手で1mの段差でも乗り越えられず、傾斜20°程度までしか登れません。 また、傾斜や凹凸が有ると本体自身が傾き、作業性が極端に悪くなります。 これに対して脚式の走行体は脚の位置や角度を調整することにより、地盤の傾斜に関係なく本体を水平に保つことが出来るなど、多くの利点が有ります。 具体的利点は次のようなものが考えられます。 

  • 悪路、不整地、傾斜地、河川横断等道路以外を走破出来る
  • 一定以下の障害物や段差は、乗り上げや乗り越えができる。
  • 地盤の傾斜、凹凸にかかわらず、機体は一定の高さ・角度を維持できる
  • 脚角度コントロールにより全幅を調整できる(停止中・走行中とも)ので、狭い場所も通過可能であり、広い場所では安定作業が可能となる
  • 停止位置から360°どの方向へも進行可能である
  • 地表面から機体下面までの距離(最低地上高)を変化させられるので、一定水深以下であれば、水の中でも歩行可能である
  • スリップすることが少なくけん引力が強いので、不整地用トレーラーヘッドとして使うことが出来る

このように従来の走行体には無い多くの利点があるため、過去には開発にチャレンジした人もいたのですが、実用化に至ったことはありませんでした。 これは、脚式走行体の走行制御は非常に難易度が高く、コンピューターによる制御プログラムが未熟であった過去には、スムーズな制御が出来なかったからです。 しかし、現在の電子技術やソフトウエア技術、AIやセンサーの進歩、制御半導体の小型化や高性能化が相まって、スムーズな走行制御技術開発の環境は整ったと考えられます。 これが完成すると山地、傾斜地など従来は道路を作りながら進入し、作業していた現場へ道路を作らず歩行進入が可能となるのです。

 

どこで使うのか

 この走行体が完成すれば、最も恩恵を受けるのは日本の林業であると考えられる。 日本の山地には無限と言えるほどの森林資源が眠っている。 しかし、傾斜地が多い日本の山地から木材を搬出するコストは高く、海外からの安価な木材に押されて国内林業は壊滅的打撃を受け、国の助成を受けて設けた林道や作業道付近の搬出が容易なもののみの利用にとどまっている。 道路を作らずに木材搬出が可能となれば搬出コストは劇的に下がり、木材利用は輸入から国産に大きくシフトすることとなる。 

 

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  林業用の機械は上のようなイメージで、伐採、玉切り、枝打ちを自動的に行うことが出来るハーベスタを取り付け、後部にはウインチを装備することとなろう。

 

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 ウインチが有れば索道を張り、道路無しでの木材搬出が容易となる。 上のイメージ図のように、本機2台で索道を張れば、設置作業も簡易である。 本機が1台であれば一方端には立木の反力を利用した支点を設置することとなる。 ラジコン索道操作が出来るので、トラックに直接積み込むことも容易となる。

 これから通信環境5G、6Gと高速大容量化が進むと、本機にカメラを取り付け無線操縦化すれば、伐採作業は現地へ赴かず自宅パソコンからの操作で可能となり、林業3K(きつい・汚い・危険)業種から脱却できるのである。 

 

 農業でも利用できるところは沢山あると思われる。 現状、稲作では相当機械化が進んでいるが、これは田面は平坦であり国が大きな補助金を出して圃場整備を行って大面積化を行った結果であり、畑作果樹園芸分野では地表面凹凸段差が多く、傾斜地も多いことからいまだに労働集約的生産であり、機械化は非常に遅れている。 六脚走行機械であれば地表面の状況にかかわらず機械本体は一定の高さと角度を維持することが可能なので、植え付け収穫なども機械化・自動化が容易となる。

                  

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 上図は果樹収穫のイメージであるが、このような平坦地で無く傾斜地でも安定した作業が可能である。 もう少し技術が進歩すれば、果樹園に人が行かないリモート収穫やカメラで果樹熟度を認識して収穫する自動収穫の時代もいずれ到来する。 

 

 建設業では災害復旧渓間工事などで工事機械・資材搬入のため、急斜面や不整地に搬入道路を作ってから工事にかかる場合が多い。 この機械を利用すれば搬入路を作らず機械を現場に入れ、資材は索道やポンプ圧送などで搬入することが可能となる。 道路築造費用削減や山地現況変更による環境破壊の防止に役立てることが出来る。

 

 道路や水路などの法面除草等には傾斜対応力が大きいことと、横断方向で法面を登りそのまま縦断方向へ進行して作業が出来るので地表面を乱すことが少なく、この機械の長所を生かした作業となる。  

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 上図は道路法面除草のイメージであるが、このような現場でも機械は横歩きで法面を上昇し、縦歩きで作業することが出来る。 また左右脚接地位置に高低差が有っても、機体は水平を維持できるのである。

 

 洪水や地震津波で道路が寸断されるような災害復旧現場でも掴みフォークを取り付けた機械を投入すれば歩行によりピンポイントで必要な場所へ到達し必要な作業を始めることが出来る。 がけ崩れや大雪で道路が寸断し、孤立した集落などへ食料を運搬した上で必要作業をこなすことも可能となる。 

 災害復旧用の機械を専用に確保しておけば使わなくても保管場所費用メンテナンス費用が発生するが、通常は林業等で使用して、いざ災害というときにはこれらを利用できるような契約としておけば、使用に応じた費用のみしか発生しない上、機械のアタッチメント交換のみですぐに調達でき、オペレーターもついてくるのである。 

 

 このように、高速走行は苦手であるが不整地でも安定した作業が可能となるので、限りない用途が期待できる。 要(かなめ)はスムーズな走行をコントロールするプログラムにある。 

 私は機械工学を学んだので、構造を考えるのは得意だが走行の電子制御は不得手なので、この分野は得意な人に任せることとした。 知己を頼って長岡技術科学大学梅本和希先生にお願いをすることになり、昨年(2020年)4月より研究を開始した。 先ずはミニモデルを作り、各関節はサーボモーターで駆動し、とりあえずは平面での安定走行を目指した。

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 写真の実験機で昨年12月までに縦、横、斜め及び緩い傾斜地は走行が出来るようになった。 ただ、写真でわかるように電源や走行制御は外部から有線で電気を送っているので、本年はバッテリー制御頭脳を搭載して無線化し、外部でのジョイステック操作で動かすことと各種センサーを増やして最低地上高制御急傾斜地安定走行等の能力増強を計画している。 

 この実験機が一定のレベルになれば次は実機の1/2~1/3の大きさでエンジンを搭載し、油圧駆動する実験機開発に進む見通しである。 順調にいけば8~10年後には実作業が出来る実証1号機が出来る予定であるが、果たして私が老化せずに開発を続けられるかどうかは、神のみがご存じというところであろう。 

 今後は開発の節目節目で開発状況を発表していけたらと思う。 興味のある方は、是非自分が出来る範囲での協力を頂ければ、大変ありがたいと思う。