企業経営のお話 その5

 今回は今話題の賃上げについて中小企業経営三十数年の経験を基に「賃上げと企業業績」と題して私見を述べてみたいと思います。

 

               賃上げと企業業績

 

 日本国政治家の劣化により日本の経済的活力は停滞し、失われた10年といわれていた経済停滞期間はとうとう失われた30年といわれるようになってしまった。 この間日本企業によるイノベーションは見る影もないほど減少し、企業投資はもちろん優秀な頭脳まで海外に流れ、付加価値の高い製品を作り出せなくなった結果労働者の賃金は30年間横ばいを続けてしまっている。 

 今やG7の中では最低となり韓国にさえ抜かれる始末である。 最も責任のあるのは活力ある国家を創出する未来戦略を提案し国家の方向を示すべき政治家であるが、無能な政治家に期待できない今、企業経営者各々が日本にイノベーションを起こす仕組みづくりに挑戦すべきと考える。 それでは経営者はどのような行動を期待されているか、今回は特に賃上げの「観点」から述べてみたいと思う。

 

 失われた30年の間、世界における個人の平均年収は右肩上がりとなってきたが、日本ではほぼ横ばいで推移している。 しかし企業業績が悪化しているわけではなくバブル崩壊以来のグローバル化で日本企業は国内よりも海外投資を重視した結果、国内には付加価値の高い新鋭工場等の新設が少なくなり、結果給与水準を上げることが出来ず、国内の優秀な人材は海外企業に流れ、海外からの優秀な人材も流入しなくなってしまった。 この結果国内ではイノベーションが起こらず、ゆっくりと衰退する「ゆでがえる国家」化しているのである。

 私の中小企業経営の経験から言えば、従業員の給与を上げても企業業績はそれほど悪化しないどころか適正な賃上げ企業業績を向上させるものである。 もちろん漫然と賃上げするのではなく、がんばったら到達しそうな目標を掲げ達成出来たらかなりな部分を賃上げ原資とするのである。 例えば業務グループ毎に目標設定し、達成度により賃上げ率を変えるなど、がんばるモチベーションを与える仕組みは必須であるが、かなりな額の賃上げは従業員の意欲を高め生産性が大きく向上するのである。 逆に言えばこのように日々の革新により付加価値を高めて従業員の給与を上げ、優秀な人材を確保することが出来ない会社は淘汰されて当然な会社なのである。 現在革新的な技術やサービスで世界を席巻しているGAFAとよばれる巨大企業の給与水準と日本の給与水準を比べれば、GAFAがなぜ急成長できたかが理解できるであろう。

 

 中小企業では定期的な昇給システムがない会社も多いが、きちんとした評価制度と昇給制度があると一般的に同業者より給与水準が高くなる。 給与水準の高い会社には優秀な人材が応募・定着するのである。 昨今の人手不足で「求人を出しても全く応募がない」と嘆いている経営者は多いが、周辺給与水準以下で募集しても応募がないのは当然で、給与水準を上げれば必ず応募はある。 要は自らの労働環境や業務要領を整備し、授業員が自ら知恵を出して付加価値の高い労働ができるように工夫したうえでそれに見合う給与水準を実現することが必要なのである。 

 また経営者は常に勉強を怠らず、優秀な従業員が革新的なサービスなどを提案した場合にそれを採用するか否かの合理的判断ができる能力を獲得し、採用して業績に貢献した場合はそれに応える社内システムの整備も求められている。

 

 私にも経験があるが、給与というのは毎月現金で支払わねばならないが仕事をして入金するのは一般的に3~6か月後になる。 経営者は会社の口座から現金が減少することには非常に憶病なものなので、現金出費が確実に増加する賃上げを抑制したいというバイアスがかかりやすい。 しかし周辺給与水準に比して高い水準の給与を支給することこそ高い能力の人材を引き付け、会社を成長させる原動力となるのであって、給与を惜しんで会社の利益を確保しようという発想は結局のところ会社を衰退させ、破綻させる結果につながっていくのである。

 経営者は常に自社の経営資源を使って業績拡大する方策を探らねばならないが、給与水準の高い優良な会社は経営者のみならず多くの従業員が自らの努力で業績拡大やコストダウンを目指して行動しており、社内にはそれに応える報酬システムや人事制度が整備されているものなのです。

 失われた30年を取り戻すためにも、日本に革新的な商品やサービスのイノベーションが生まれ世界を先導する賃金体系を構築でき、世界の優秀な頭脳が日本に集積する時代を希求しており、経営者諸氏の奮起を期待したいと思います。