令和の日本列島改造論 その17

                                                    日本の人口対策

 

 日本の昨年の出生者数は80万人を割り込み、第一次ベビーブームの出生者数269万人と比べれば1/3以下となっている。 少子化が進行する社会構造となってしまった日本の現状に政府も危機感を持ち様々な少子化対策と銘打った策を打ち出してはいるが、もはや日本の官僚に「抜本的な」対策を打ち出す能力は喪失してしまっているので、岸田政権が「異次元の少子化対策と意気込んでみても出てくる政策は各省庁での従来の対策に色を付けて予算だけは増額した泥縄式で「低次元の少子化対策」となることは目に見えていると思われる。 そもそも人口問題というのは社会構造の変化により起こるものなのであるから、社会の変化に合わせて長期的視野で激しい増減の少ない状況にする施策を継続的に執行していく必要が有るものなので、時の政権の掛け声や一時的な予算増額で対処できるものではないのです。

 それでは日本での長期的視点に立った効果的な少子化対策とはどのような形で進めればよいかを先進各国の現状も見ながら考察してみたいと思う。

 

 少子高齢化というのは日本だけの問題ではなく先進国共通の課題となっている。 社会が成熟し女性の社会進出も進んでいくと「子供を産み育てて家族を作っていく」ということに対するコストと労力を負担することが困難になる階層の増加と家族を作らなくても生きていけるという社会全体の意識の変革が進み、晩婚、非婚、少子となっていく。 日本に限らず世界のどの国も平和で市場経済が発達した中で為政者が何の対策もせず市場原理に任せれば少子化は避けられない事態なのである。 それでは先進国の人口減少は避けられないのだろうか。 人口減少対策を実行している他国の状況も参考にしながら、日本の対策を考えてみたいと思う。

 

 先進7か国(G7)の中で人口が増加しているのは2か国のみ、それはアメリカとカナダです。 しかしアメリカやカナダの出生率が特段に高いわけではなく2021年度の合計特殊出生率アメリカが1.66、カナダが1.43ですから日本よりかなり高いとしても減少傾向なのは同じです。 アメリカとカナダの人口増移民が多いからなのです。 従って人口減少対策の一つは移民受け入れです。 合計特殊出生率2.07として算出した静止人口出生数に足りない人数を移民として受け入れれば、理論的には人口減少は無くなります。 しかし、日本は基本的に移民を認めていません。 日本に来て働いている外国人は移民ではなく期限を定めて技能を習得するために実習しているという位置付けなのです。 しかもその数は少なく今のままでは人口減少を補うことにはなっていません。 なぜ日本は移民を受け入れないのか、それは大量の移民受け入れによる日本の文化や慣習の衰退治安の悪化を恐れる自民党右派の頑固な反対があるからなのです。 

 しかし、移民の受け入れなしに日本の人口を静止状態にすることはもはや不可能です。 それでは、どうすれば移民を受け入れても日本の文化や慣習を守り治安の悪化を抑えることが出来るのでしょうか。 そもそも文化の衰退や治安の悪化は移住した外国人を日本人と同化する施策がなされていないから起こるのです。 移民を単なる安い労働力と考えて低賃金で過酷な労働を長時間強制するような考え方は根本的に改めねばなりません。 日本に移民したら日本人になりきってもらって同様な権利義務・報酬などにしなければなりません。 

 そのための一つの方法は現地に学校を作ることです。 日本で働きたい、日本へ留学したい、日本と我が国の貿易や交流に貢献したいなどと要望する人が多い国にODAなどの予算を使って現地に学校を作り、日本語日本の慣習マナーなどを必修科目とした上で専門教育を施し、一定以上のレベルに達した人には就労ビザを発行するのです。   もちろんこの学校の学費についても日本からの援助で無償化するのです。 一定期間問題を起こさずに就労できた人には希望すれば国籍を取得できたり家族を呼び寄せたり出来るように配慮するのです。 また日本人と結婚して家庭を持てるような施策も推進するのです。 この人たちは母国語と日本語の両方が堪能となるため、この様な人たちが多くなればその国と日本の経済や文化の交流が活発となり双方の国力向上に資することでしょう。

 

 同じくG7の中で出生率を高める施策で成功している国はフランスです。 フランスでは1994年に合計特殊出生率のボトム1.73を記録していますがその後回復し近年は1.8~2.03の範囲に入っています。 増加とはなっていませんが静止人口に近く急激な人口減少は回避されています。 それではどうしてフランスの出生率は向上したのでしょうか。

 フランスの少子化対策は子供が多い家庭ほど税や助成金で優遇され、教育費はほぼ無償で一人親でも子育てで困窮しないようにしていることです。 このため結婚して子供を育てるという伝統的な家庭観は希薄となり、生まれる子供の半数以上は婚外子です。  このような家族観はまさしく自民党右派の最も嫌うところで、日本でフランスと同様の少子化対策は国会通過がかなり難しそうです。 しかし高度経済社会となった先進国では婚外子が普通に生まれて、差別なく経済的にも困窮しない社会としなければ、出生率を向上させることは不可能なのです。

 日本で本当に「出生率の向上」に取り組むとすれば企業を巻き込むことが最も有効です。 企業を巻き込んで週35時間以上働く人の年収を全て350万円以上とすれば出生率は劇的に改善します。 しかし多くの企業では無理でしょうから次善の策として税制を変えて企業の制度を誘導するのです。 具体的に言えば制度を充実させると企業にメリットが生まれるように制度設計することです。  企業に子供が多くなるごとに増える育児手当」の支給を奨励し、この手当は給与ではなく経費扱いとしたうえでこの一部を税額控除できる制度を設けるのです。 また育児休業中に給付金に上乗せして手当を支給したり、育児休暇中に給与を支給した場合もその一部を税額控除出来るようにすることで企業側のメリットを作り出します。 このような制度があれば企業は優秀な人材獲得に有利になる上に節税メリットも大きいので利益の出ている優良企業の多くは採用することでしょう。 赤字がでている企業にこの制度はメリットがありませんが、制度を採用できる企業とできない企業では人材採用力に更に差が付き、企業の新陳代謝にも貢献するはずです。

 そして最後に、これはさらに長期的視野に立って政策を継続する必要が有りますが、日本の教育体制を変え、産業構造を変えるような人材を多く輩出する環境を作っていかねばなりません。 今の日本の教育環境はどの教科も平均的に出来る者が評価され、異端な能力は評価されずにスポイルされます。 異端な能力者の能力を極限まで引き出し、日本産業の付加価値を大幅に向上させ若年層の年収飛躍的に向上させることが必要です。

 先進国の効果的な少子化対策の一つは非婚・晩婚対策です。 非婚・晩婚対策には若年層の年収向上が最も効果があります。 そして若年層の収入向上には付加価値の高い事業を持つ企業を国内で育成することが最も必要なことです。 優秀な技術を持つ日本企業は多いが、GAFAMのような付加価値が高い事業を展開する巨大企業は見当たりません。 挑戦する日本人が増加するように日本の教育体制から変えていかなければならないと思います。