開発人生記 その16

                                                       土嚢袋スタンドの開発

 

 今までの開発人生記では比較的大きい建設機械的なものの開発を紹介いたしましたが、今回は機械に詳しくなくても開発できるアイデア商品的なものの開発経緯と商品を披露いたします。

 

 この開発は1990年代の日本中で下水道工事が行われていた頃のものです。 「開発人生記 その2」「同 その3」で紹介したように私はその頃下水道関連の会社を経営していました。 まだ起業して間がなかったので営業も施工も自ら行っていた頃です。 顧客企業の下水道現場へも頻繁に顔を出していました。

 下水道管を敷設する場合は敷設する路線を掘削機で溝状に掘り、その底部に下水管を連続して並べていくのです。 この管の周囲は砂で埋め戻し、下水がスムーズに流れるように一定の勾配を付けるのです。 この勾配は1‰(パーミル:1mで1ミリ下がり)とか2‰とか非常にわずかなもので、正確にまっすぐ入れる必要があります。 この勾配を正確に決めるため土嚢袋に砂を入れて溝の下に置き、先ずその土嚢袋の髙さを正確に決めてその上に下水管(塩ビ管)を置くという方法で敷設するのが一般的でした。

 また、管の下のみならず浮き上がり防止のために管の上に置いたり、横ずれ防止のため横にも置いたりするので1日に何十個と土嚢袋に砂を詰める必要が有ったのです。 こういう軽作業は女性が担当する場合が多かったのですが、ある日私が現場訪問をしたとき土嚢袋製作中のおばさんが「毎日片手で土嚢袋を持ち片手でスコップをもって砂を詰めているので、スコップを持っている手を使いすぎて夜痛くて眠れない」と愚痴を言ったのです。 そこで私は「おばちゃん 袋を片手で持たなくても良いものを作ってあげる」と言って作ったのが下の写真の器具です。

    

 

 これを使えば土嚢袋の口が開いた状態で立っていますからスコップ両手で持って袋に砂を入れることができます。

 

        

             袋に砂を入れている状態


 上部の丸い輪は鉄筋加工をする業者に作ってもらい、下の脚は自社の鉄鋼加工部門で作り溶接組み立てして塗装しました。 先のおばちゃんは大喜びしたことはもちろん、大概の業者は欲しがったためとりあえず作った50個はすぐに完売しました。 

 売価は五千円としたため、売り上げ金額自体は大した額ではありませんでしたが、おばちゃんの悩みを解消し多くの人に喜んでいただけたことが大きな収穫でした。 当時はインターネット販売が無かったので訪問や口コミのみでの販売でしたが、現在のようなNET販売があればもっと沢山売れたことでしょう。