目的はなにか(続)・・・・介護施設の目的は何か

 前回の「目的はなにか」では「その1 宗教の目的はなにか」と「その2 法律の目的は何か」を公開しましたが、今回は続きとして「その3」を見ていただきたいと思います。 今回は介護施設のお話ですが、介護施設もその質に大差があり、虐待やいじめなどの報道も多くみられます。 介護施設の経営者、責任者には特に今回の項は参考にしていただきたいと思います。

                                                その3 介護施設の目的は何か

 日本は超高齢化社会を迎え、今後さらに高齢者の増加していく中で、介護に従事する人員の不足や介護の質の問題が浮上しています。 高齢者の虐待や不適切な拘束等が報じられることも増加しているような気もします。 私は富山県射水市にある「風の里水戸田」という介護施設の運営にかかわっています。 かかわっているといっても、実務にはほとんどかかわらず、設立時の資金調達やその後の経営指導が主なのですが、その中で、実務を行っている経営陣に、「介護施設の目的は何か」ということを考えて経営するように常々お話ししています。

 介護施設の目的は「利用者に幸福感をもって生きてもらう」ことなのです。 介護施設というのは、今まで社会に貢献しながら生きてきた人たちがリタイアし、自分の身の回りのことを自分だけではできなくなった場合に入所してもらい、現役で活躍できる人に援助をしてもらうところですから、余生を幸福に生きる権利があります。 
 この目的を達成するための具体的行動を、私は経営陣にアドバイスしていますが、その行動を例示すれば、次のようになります。

① 従業員待遇の改善
 従業員給与、賞与、休暇等を会社の経営状況が許す限り多くして、優秀な人材を確保する。 特に賞与は、その期の利益は従業員の努力が大きく貢献しているのであるから、通常の夏冬賞与に加え、期末に決算賞与を支給する。 従業員自身が幸福感を感じ、心に余裕をもって仕事に臨めなかったら、利用者に幸福感を与えることはできません。

② 全員の介護レベルアップを続ける
 利用者に幸福を感じるケアをするには、ケアの質を高めるため介護にかかわる人の実力を高める必要があります。 経営者自らがまず勉強してケアの質を高める方法を習得し、従業員に伝えることや、自らがいいと思った外部研修に参加させることを推奨しています。

③ 仕事のスピードを上げる方法の伝授・訓練・研修を続ける
 給与や賞与を多く出すだけでは会社経営が成り立ちませんので、仕事のスピードを上げて単位時間当たりの仕事量を増やしてもらう必要があります。 例えば歩くスピードを少し早くさせるとか、歩いていてごみが落ちていたらすぐ拾うとか、きれいで速い掃除の仕方を教えるとか、伝えることは沢山あります。 だらだらと長時間労働をするのではなく、効率的な方法や器具、環境を与え、付加価値の高い仕事をすれば時間給の上昇を吸収できるのです。

④ 利用者一人一人の得意分野ややりたいことを聞き、できるだけ行動してもらう。
 囲碁・将棋が好きな人、折り紙ができる人、トランプゲームが好きな人、人にはいろいろな得意分野があります。 それらのことを出来る環境を整え、できるだけ活動的に日々を過ごしていただくことが介護される側の心身症状の改善に役立ち、幸福につながります。

⑤ 家族の協力を要請する
 介護の質を上げるには、本人の意欲向上に役立つ取り組みが欠かせません。 意欲向上のためには、脳にいい刺激を沢山与えることが必要です。 このためには、家族の訪問や雑談、娘や孫・自宅庭などの写真提供、季節の花を持参してもらう等、家族ができるケアの援助を具体的に例示し、行動を要請することを推奨しています。

⑥ 介護等級を下げることを目標とする
 介護施設は利用者の介護度が上がると介護報酬が増え、下がると減るシステムになっています。 このため、ややもすると利用者の介護度が上がると喜ぶ介護施設がでてきます。 私は、利用者の介護度を下げることを目標として介護にあたるように指導しています。 介護度が下がることは、利用者や家族にとっては最もうれしいことです。 利用者の満足感を向上させることが施設の目的ですし、社会的に要請されていることです。 一時の利益を追うのではなく、社会に必要な施設であろうと努力することが永続的に発展する介護施設となるのだという理念を伝えています。

 

 介護施設に限らず、すべての企業体、団体等は社会から要求される目的を持っています。 社会から要求される目的を達成すべく努力している企業体は社会が必要としているのですから永続し、目的から逸脱した運営をしている企業体は社会が必要としていないのですから破綻し消滅するのは自明のことです。 利益などの報酬は目的が達成されたことを評価されて社会から贈られるものなのです。