法曹ムラの不合理 その2

           不動産賃貸借契約トラブルのお話

 

 今回は土地の賃貸借をめぐるトラブルで、大手企業による横暴を裁判所が断罪しない許しがたい案件です。 日本の裁判官は世の中に正義公正というものを確立しなければならないという意識が全く無いようで、意識改革教育を施さなければ裁判所は民意からますます離れていきます。

 

 私は不動産投資として飲食業に賃貸中で広さ500坪余りの土地を十数年前に取得しました。 敷地内に飲食業の建物はありましたがこれは賃借した「セントラルリース」という会社が建てて飲食業者に賃貸しているものでした。 賃貸借は20年の定期借地契約で、契約が終了したら建物は解体撤去し、更地にして明け渡すというものでした。 この解体撤去・明け渡しをめぐって、その後長期のトラブルとなったのです。

 

 契約では賃貸借期間終了後3か月以内に解体撤去を完了し明け渡すこと、解体撤去期間の3か月間の賃料は無料とし、遅延した場合は契約賃料の倍額を支払わなければならないことなどが決められていました。

 敷地内の地盤が少し軟弱だったため、建物の基礎下1.5mまでセメント系の固化材で地盤を固めて強化する地盤改良がなされていました。 解体撤去の際この地盤改良の撤去はかなり大変な作業になると想定されていました。 この解体作業時の特に地盤改良撤去工程付近では私も何度か見に行きましたが、基礎コンクリートが撤去されたあと1.5日ほどで地盤改良の撤去が完了したというのです。 私は長年土木にも携わっており、1級土木管理施工技士の資格も有しています。 私の経験ではどんなにうまくいっても4~5日かかり、しかも撤去には通常の掘削機以外に固化部分を破砕するためのブレーカー付きショベルが必要と考えられました。 ブレーカー付きショベルの搬入した様子もなく、こんなに短期で撤去が完了することはあり得ないと思い、地盤改良撤去の費用と手間を惜しんで手抜きしたものと推測しました。 契約でも事前の打ち合わせでも地下埋設物を含めすべての構築物は撤去する約束となっていましたから約束違反の可能性大です。

 この土地は賃貸用です。 地中に地盤改良固形物が残されて、次の賃借人に撤去を要求されれば私が自費で撤去せねばなりません。 地下の地盤改良全部を撤去する費用は大きな金額が予想されます。 私は「地盤改良部分を含め埋設物が撤去されていることを確認されなければ預かっている敷金1000万円は返却できない」と伝えました。 この時期には最初の賃借人「セントラルリース」は合併や社名変更等を経て「三菱UFJリース」という会社に替わっていました。 この「三菱UFJリース」からの返答は「当方は約束通りの撤去を行ったから敷金全額を直ちに返還せよ」というもので、当方の残置に対する疑念や残置していないことを立証する提案に関しての回答は全くありませんでした。 

 当方は妥協案として「将来残置していることが判明したら三菱UFJリースの責任で撤去する」という確認書を交わせば敷金を返還するという提案もしましたが、無視して敷金返還訴訟を提起してきました。 そこで当方も応訴し残置物の撤去と撤去完了までは契約賃料の倍額支払いを求めて反訴しました。 裁判ではいろいろな応酬の後、残置が有るか無いか掘って確認することとなり、実際に掘ってみたところほんの一部を除き、地盤改良固化部分は殆どが残置していることが判明しました。 

 一般的な常識で言えばこちらの主張が正しく、先方はうそをついていたわけですからこちらが勝訴するのが当然です。 ところが残置物の撤去については争いはなくなったのですが契約にある「明け渡しに至るまで賃料の倍額にあたる損害金を支払う」という部分が論争となってきました。 普通に考えれば建物下に有った地盤改良部分をほぼ撤去せずに撤去したと嘘をつき、裁判を起こして1年以上土地を使用不能な状況としたのは三菱UFJリースの責任です。 当方はこの土地を賃貸した収益で取得費用を銀行に返済しなければなりません。 大きな障害物が地下に残置された状況では賃貸できませんから、明け渡したということはできません。 当方が賃貸できなかった期間に被った損害はうそをついていた先方が負担するのは当然と考えられます。 ましてやこのような嘘偽りを抑止するために「賃料の倍額」という損害金が契約書に明記されているのです。 この契約条項を裁判所が認めないということは、裁判所自身が民間の「契約による経済活動の安定」を脅かすうえ、「うそをついたもの勝ち」「正直者が馬鹿をみる」風潮を助長するのです。 

 三菱UFJリース側は全部撤去したと嘘を言っていたのがばれてしまったので、今度は「地盤改良以外は撤去が終わっていたのであるから、自分たちの占有を離れ明け渡しは完了している」という主張に変えてきました。 土地を明け渡したというのは次の賃借人に貸し出すことが出来る状態を言うのが常識だと思います。 元の建物跡下全体に固化体が埋まっているような状況では借り手が現れず、また賃借希望者が有っても撤去してからの賃借を希望するのが普通です。 しかし判決では残置してある地盤改良固化体の撤去費用は敷金から控除することとしたものの遅延損害に関しては先方の主張を認め「大方の撤去が完了し借主の占有を離れたと認められるので明け渡しがなされている」とされたのです。 賃貸契約書は公正証書になっておりそこには「本契約が終了した後、3か月以内に本物件を原状に復して、明け渡す」となっており、現状に復されていないことを裁判所は認めていながらこのような判決を出すということは、裁判官は日本語を読めないのでしょうか。 公正証書までしてある契約をないがしろにする裁判官は契約の有効性を踏みにじるもので、契約社会の根幹を揺るがせる行為です。

 私は当然控訴しましたが、控訴審ではまたまた訳のわからない裁判官が登場し、一審で認めた「敷金から残置物撤去費用を控除して残額を返還する」という部分が問題で、撤去は三菱UFJリース側が自らすべきではないかと言い出しました。 最初に全部撤去を約束していながら嘘をついて手抜き工事をした相手に再び工事をゆだねても、再度の手抜き工事が強く懸念されます。 すると再び裁判となり、いつ終結するかわかりません。 その間ずっと私は土地を貸出しできず収入がないのに銀行に返済を続けねばなりません。 

 この裁判中もアパート業者や福祉関係の業者から土地利用の問い合わせをもらっていましたが、いつ終結するかめどがついていなかったため事業として進めることが出来ませんでしたが、一審の判決直前に当方土地と隣地を合わせた1200坪ほどを開発して借りたいという話が出てきました。 広い土地を一体再開発すれば土地の価値も高まり、長期の賃貸が期待できます。 一審で決着がつくと思っていた私はその話を進めてもらうようにお願いしてあったのです。 私の思いと大幅に異なる非常識な一審判決であったため控訴したわけですが、私が控訴を取り下げすれば一審判決は確定します。 

 この再開発計画を頓挫させるわけにはいかないので計画の実施がほぼ確定した段階で私は控訴を取り下げました。 この結果一審判決が確定し、地盤改良残置物の撤去費用は確保できましたが2年に亘って賃貸できなかった賃料部分の損害は全く回復されず、また弁護士に支払いした百数十万円も私の手だしとなってしまいました。 三菱UFJリースとしては地盤改良固化体撤去費用の負担はありましたが、これはもともと撤去すべきもので建物解体時にまじめに撤去していればその時に必要だった費用です。 嘘をついて裁判に持ち込み私に大きな損害を与えたペナルティは何も無かったということです。

 「法曹ムラの不合理 その1」でも書いたように法曹界に蔓延している「一般常識との乖離」はこの判決でも顕著です。 契約書にきちんと「原状に復して明け渡す」と書かれているにも関わらず、現状に復していないことを認めながら明け渡しを認めるなどという矛盾は常識では考えられません。 また先に書いた「うそをついたもの勝ち」を裁判所が助長していることも一般常識では大問題です。 

 法律というのは「社会正義を具現し、普通に暮らしている普通の人の生活を守る」ことが目的です。 そして裁判というのは国民にとって正義を主張し実現するための最後の手段です。 その最後の手段がこのような非常識極まりない結果に終わるのでしたら、真っ当に生活している国民はだれが守るのでしょうか。

 政治家や官僚の劣化は過去のブログで記載しましたが、法曹界も前例主義で、自ら考えようとしない・考える力のない者が増えつつあるようです。 世の中は日々、どんどん変化しています。 変化を感じ取って未来が素晴らしいものになるように考える法律家が消えていく日本はこれからどうなっていくのでしょうか。